西洋医学の診察では、血液、尿、レントゲン、超音波、CT、MRIなどの検査を行い、病気を診断した後で治療方法が決定されますよね。
しかし、漢方薬の診断の方法、病態把握の方法は西洋医学の方法とは全く異なることは皆様ご存じでしょうか。
漢方を学ぶ上で、まず西洋医学の知識をいったん置いておいて、頭の中を真っ白にしたうえで学ぶことが近道かと思います。
病態を把握する指標
漢方では病態を把握する指標として「八綱(はっこう)」があります。
八綱には
- 陰陽
- 虚実
- 寒熱
- 表裏
この4つのペア、8つの概念があります。
八綱は病態の物差しのようなものです。
陰陽
陰陽という言葉はあまりなじみのある言葉ではないと思われるかもしれませんが、
私たちは日常の中で、陽気な性格や陽だまりという言葉には陽、陰気臭いや木陰などに陰という言葉を知らず知らずに使っています。
よって、私たちは陰陽の意味を感覚的に理解していると思います。
具体的には陽には明るい、温かい、活発、積極的、開放的といったようなイメージがありますよね。
陰には、暗い、寒い、不活発、消極的、閉鎖的というようなイメージがあります。
この感覚をそのまま漢方に持ち込みましょう!
陰陽のルーツについて
陰陽のルーツは陰陽二元論(身の回りのものすべてを陰と陽の対極に分類してとらえようとする古代中国思想)にあります。天が陽で地が陰というような。
陰陽の概念は絶対的なものではなく、常に何と比較をした相対的なものです。
したがって、同じものでも何と比較するかによって、陰となったり陽となったりします。
部位による陰陽の分類
人が手と足を地面について四つん這いになっている姿を想像してください。
この状態で太陽の日が当たるところは「陽」、日の当たらないところは「陰」に相当すると考えます。
よって、背側が「陽」、腹側が「陰」ということになります。
風邪に用いる葛根湯は陽病である太陽病の代表的な処方です。
この処方を肩こりに応用するときに先ほどの背側の用の部分の背部正中(脊柱)にそった縦型の凝りを目標にしています。
陰陽の性質による分類
新陳代謝が更新した状態、つまり熱産生が更新した状態、活動的な状態を「陽証」
新陳代謝が低下した状態、つまり熱産生が低下した状態、非活発的な状態を「陰証」
と考えます。
陽証は暑がりで冷たいものを好み、顔面が紅潮しているなどの特徴があります。
陰証は寒がりで体温も低く、顔面蒼白である特徴があります。
このように分類する意味としては、陰証に対しては温めて、陽証に対しては冷やすというようにその治療法が全く異なるためと考えられます。
虚実
空虚という言葉からわかるように、虚は中身がからっぽというイメージ
充実という言葉からわかるように、実は中身がぎっしり詰まったというイメージがあります。
これらを発展させて、虚は緊張がない、無力的、生命力が衰えて不足したような状態のことを指します。
実は緊張が強い、力が強い状態がイメージできるかと思います。
より簡単な言葉では、「虚弱体質」と「体力充実」というような感じですね。
虚実には大きく二つの意味があります。
- 体質の虚実
- 病毒の虚実
この二つを区別して考える必要があります。
体質の虚実
体質の虚実とは普段の全体的な体質傾向のことです。
筋肉質でがっちりした体格、体力があるものは実。
やせて体力がなく、虚弱体質のものは虚。
こう考えて問題ないですが、実臨床ではすべてが虚、すべてが実のひとはそうそういません。
通常はひとりの人に虚の側面と実の側面が混在しています。
おおまかに虚証のパターンか実証のパターンかを考える必要があるようです。
体質の虚実の鑑別には、ふとっている、やせているということではなく、むしろ消化器症状と活動性に着目することが大切です。
つまり、実証とは食べるのが早く、食事を抜いても大丈夫で、活動的で疲れにくいなどの特徴があり、
虚証とは胃腸が弱く、下痢をしやすい、疲れやすく抵抗力がないなどの特徴があります。
このように通常「虚証」「実証」とは体質の虚実のことを指しています。
例えば、
生理痛がひどい女性で虚証と判断すれば当帰芍薬散を実証と判断すれば、桂枝茯苓丸を処方するというような応用をします。
これが虚実の原則であり、おおよそ7割程度はこれで間違いないかと思います。
虚実の例外について
原則があれば例外ももちろんあります。
一つ目は、体質から見て実証と判断できる実証体質の人に虚証向きの薬を使用する場合があります。
これは、実証の人が無理をして夏バテしたようなケースが考えられます。
夏バテに対して虚証向きの薬で対処します。
全体的な器は実証であっても部分的に不足している、虚証に着目して補うという考え方をします。
二つ目は、体質は虚証であるのにも関わらず、実証向きの薬を使用する場合です。
これを考えるときには、もうひとつの虚証の概念である「病毒の虚実」をもとに考えることが重要です。
病毒の虚実とは体内にある病毒の量のことで、これを測るには、通常、発熱や発赤、腫脹、疼痛など体に現れた闘病反応で測ります。言い換えると、局所の虚実と考えてもいいかもしれません。
闘病反応が激しい、局所に病毒が充満した人は実(邪実)の状態で、
逆に闘病反応が弱い、局所に病毒が少ない人は虚の状態と言えます。
例えば、痩せて体力がない高齢者の胆石発作を考えてみてください。このような場合には、体質は明らかに虚証ですね。しかし、局所は疼痛や発熱が激しい「邪実」となります。よって、大柴胡湯や茵陳蒿湯などの実証向きの処方を考慮します。
もう少し身近な例でいくと、生理痛を訴えている痩せて体力がない、体質が虚証の女性が、
下腹部の圧痛が強いと邪実と判断して、虚証向きの当帰芍薬散ではなく、実証向きの桂枝茯苓丸を処方することもあります。子宮筋腫や子宮内膜症の方に時々あるパターンだそうです。
虚実に対する治療方針
実に対して、病毒を体外へ排出する方法があります。
- 発汗法
- 瀉下法
虚に対しては、体力や性目力を補うことが治療の原則となります。
実際に目の前の患者様にどのような薬を処方するのか診断する場合は、医師や薬剤師の臨床経験と漢方への理解の深さによって良し悪しが決まってくるかと思います。大切なことは、自分がなぜ今この患者にこの処方が必要と考えたのか、処方の根拠を明確にすることです。
当帰芍薬散で効かないから桂枝茯苓丸にした。というような方法では決して漢方は上達しません。
処方根拠を明確にすることが、最終的に漢方の理解につながります。
最後に
漢方の病態把握の指標について一部ですが、学習しました。次は、寒熱や表裏になどについてまた勉強していきたいと思います。
では(@^^)/~~~
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