今回は、西洋と漢方薬の違いについて、主に考え方の点について学んできましたが、西洋薬と漢方薬では用いる薬の特性も大きく異なっています。
漢方と西洋医学の、用いる薬の違いについて
一般に用いる薬の素材は、漢方薬では天然物であることに対し、西洋薬は合成品であるというイメージがあるかなと思いますが、西洋薬も一昔前まではほとんどすべてが天然物由来でした。
現在でも生薬から抽出した成分を用いている西洋薬は数多くあります。
漢方薬の薬物の特性としては、有効成分が多成分の複合であることが特色であると思います。
例えば、漢方で水毒とよばれる病態に用いられる五苓散は、口渇、尿不利という使用目標から利尿作用があると考えられます。しかし、それは西洋薬のループ利尿薬と同じ??ということになるのでしょうか。
以前行われた研究の一つに、五苓散とループ利尿薬をそれぞれ経口摂取して、その後の経時的な尿量変化を記録したものがあります。昭和大学の田代先生が行ったものだそうです。
まず、ループ利尿薬を経口摂取してしばらくした後、尿量が増加しました。一定時間が経過すると薬の効果がなくなり、その後は服用前の尿量に戻ります。
続いて、五苓散で同様のことを試しても程度は異なりますが、同じように一定時間尿量が増加します。
よって、この結果はループ利尿薬も五苓散も同じ利尿作用を持つということを意味するかと思います。
次に、同じ実験を点滴を行わずに脱水傾向となったところで再度行いました。
すると、ループ利尿薬はやはり尿量を増やしましたが、五苓散は逆に尿量を減らす方向に作用したそうです。
さらに点滴をやめて一昼夜絶飲食とし、脱水状態を進行させて再試験を行ったところ、恒常性を保つために尿量を極力減らしていた生体に対し、五苓散はさらに尿量を節約する方向に作用する働きをすることが分かったそうです。
ところが、このひどい脱水状態でループ利尿薬を使用すると、ループ利尿薬は生体の恒常性を無視して大幅に尿量を増加させてしまいました。
この結果は身体が水分リッチな状態では五苓散もループ利尿薬も同じ方向のベクトルを向くのに対し、水分不足の状態ではループ利尿薬は生体の状況に関係なく一定の方向のベクトルを持ち続けますが、五苓散のベクトルは向きが変わるということを示しています。
つまり五苓散は生体の状況に応じて変化する、求心的なベクトルを持っているのです。これは、様々な成分を併せ持つ多成分系のなせる業と言えるでしょう。
また、漢方薬は人間の恒常性の中で、自然治癒力を最大限に引き出すという特性を裏付けていると考えられます。
現代医療における漢方医学の位置付けについて
漢方は西洋医学とは全く異なった診断治療体系をとっています。
西洋医学は原則的に病気の診断を行った後に治療を行う段階を踏みます。
漢方では、何らかの不都合な自覚症状が出現した場合に、その症状を改善するように治療することができます。
漢方も西洋医学もそれぞれ得意とする治療分野をもち、良い医療を提供するための2本の柱のような存在かと思います。
これらを効率的に運用するためには、一人の医師や薬剤師が東洋医学と西洋医学ぞれぞれの長所と短所を知ったうえでうまく使い分ける必要があると考えられます。
これが現代医療の理想的な姿なのではないかなと思います。
そのために、苦手な分野ではありますが、少しずつでも勉強していく必要がありますね…苦笑
漢方と西洋医学の適応・不適応について
先ほどの理想像を作るためには、両医学の適応と不適応を知る必要があります。
まず、漢方の適応は「不都合な自覚症状があるもの」です。
たとえば、足の裏がほてる。食欲がない。等の訴えに対しても治療を試みてよいということとなります。
臨床的には、明らかな病変部位がない、機能異常を主とする疾患というのが漢方の一番いい適応となるかと思います。
逆に、ショック状態や緊急の処置が必要と思われる症例、重症感染症などは西洋医学を最優先すべきであり、漢方の不適応と言えます。
逆にこれらの不適応要素をしっかりと見極めて除外することができれば、その他は漢方治療を試みてもよいということです。
実際は風邪や慢性肝炎などの西洋医学でも漢方でもどちらでも治療ができる領域にあたる疾患が大半を占めています。
これらに対しても、西洋医学と漢方の両方の目で見てどちらがより適しているのか、あるいは併用した方がいいのかなどの判断が必要となります。
現代医療において最も注意すべきことは、漢方治療にこだわりすぎて、適切な西洋医学治療を受けるタイミングを逃さないことですね。
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