臨床検査・血球検査(赤血球)②

医療・薬

貧血の状態を調べる検査

貧血は、赤血球が減少する原因によっていくつかの種類に分けられます。

赤血球産生のしくみ

赤血球は骨髄で産生され、末梢血に送り出されます。

赤血球の寿命は約120日であり、古くなった赤血球は脾臓で破壊されます。

産生量と同じ数だけの赤血球が脾臓で破壊されているため、末梢血液中の赤血球数は一定に保たれています。

末梢血中の赤血球が減少すると、ヘモグロビン濃度も減少するため、酸素運搬能が低下します。

このようにヘモグロビン濃度が減少した状態が貧血です。

逆に赤血球が増加し、血液の粘稠度が増した状態が多血です。

骨髄で赤血球が産生されて末梢血に出てくるまでをみてみましょう。

骨髄では幹細胞が分化し赤芽球になります。

赤芽球は、ビタミンB12や葉酸により細胞分裂を繰り返しながら、鉄を原料にしてヘモグロビンの合成を行います。

その後、脱核して網赤血球になります。

網赤血球は約2日間は骨髄にとどまり、末梢血に出て1~2日で円盤状の成熟赤血球になります。

赤血球指数

赤血球の大きさやヘモグロビン量を指数として求めると、貧血を分類することができます。

これを赤血球指数といいます。

赤血球指数には、MCV、MCH、MCHCの3つがあります。

MCV

MCVは、平均の赤血球容積といい、赤血球1個の大きさを表したものです。

基準値は、80~100fl(フェルムリットル)です。

MCH

MCHは平均の赤血球血色素量といい、赤血球1個あたりのヘモグロビンのグラム数を表したものです。

基準値は、26~32pgです。

MCHC

MCHCは、平均の赤血球色素濃度と言い、赤血球1個に含まれるヘモグロビンの濃度を%で表したものです。

基準値は32~35%です。

これらの値から、貧血を分類していきます。

貧血の種類

貧血には、主に小球性低または正色素性正球性正色素性大球性または高色素性の3っつの種類があります。

その違いを下記図にまとめました。

小球性低(正)色素性貧血

小球性低(正)色素性貧血の場合は、鉄欠乏性貧血があげられます。

鉄欠乏性貧血では、ヘモグロビンの合成に必要な鉄が欠乏することでヘモグロビンの合成障害が起こり、赤血球の大きさ(MCV)が小さく、ヘモグロビン量(MCH)の低下した赤血球が見られるようになります。

鉄欠乏性貧血の原因

①鉄の摂取不足

 過度のダイエットなどにより鉄の摂取量が減少している場合や、手術で胃・小腸を切除した場合に鉄の吸収が不足してしまう場合が考えられます。

②鉄の需要増大

 成長期には骨格筋の発達に鉄が必要となるため、鉄の需要が増大します。また、妊娠中には胎児に鉄が奪われるため、鉄が欠乏しやすくなります。

③鉄の排泄増加

 月経過多や消化管からの出血など、出血量が多くなると鉄の喪失が起こります。中年男性や閉経後の女性に鉄欠乏性貧血が見られたら、消化管を含む全身からの悪性腫瘍の存在を疑う必要があります。

正球性正色素性貧血

正球性正色素性貧血の場合は、再生不良性貧血と溶血性貧血があげられます。

再生不良性貧血

産生場所である骨髄組織の障害や肝細胞の障害により通常よりも赤芽球の賛成が減少して、最終的にできる成熟赤血球の量が減少してしまいます。

産生量は減少しますが、原料が減少しているわけではないため、赤血球の大きさや血色素量に変化はなく正常な赤血球の状態を呈します。

再生不良性貧血では、骨髄組織や肝細胞の障害が起こるため、一般的に赤血球だけでなく、白血球や血小板などの産生も減少する「汎血球減少」が起こります。

原因としては、先天性と後天性があります。

後天性・・・薬物の副作用、放射線など

再生不良性貧血を引き起こす代表的な薬物

  • クロマイ(抗生物質)
  • ミノ・アレビアチン(抗てんかん薬)
  • アミサリン(抗不整脈)  など

重症の再生不良性貧血の場合は、骨髄移植の適応となります。

溶血性貧血

溶血性貧血では、赤血球を産生する量より失う量の方が上回っている状態です。

通常赤血球の寿命は約120日であり、寿命が尽きた古い赤血球は脾臓で破壊されます。

ところが、赤血球が寿命に達する前に壊れてしまう場合があり、これを溶血といいます。

溶血により赤血球が失われるため、骨髄では赤芽球の賛成が増加し、造血が盛んになるため、網赤血球数は増加してきます。

溶血性貧血の原因には、先天性と後天性があります。

先天性

先天性では、遺伝性球状赤血球症などがあります。

遺伝性球状赤血球症は先天的に赤血球の膜を構成する蛋白に異常があるため、赤血球が球状になり、脾臓を通過できずに破壊されてしまう病気です。

日本の先天性の溶血性貧血の中で最も多いと言われています。

後天性

後天性では、赤血球に対する自己抗体が産生されて溶血が起こるような自己免疫疾患、人工弁置換術後など人工弁の逆流等の異常により血流が乱れ、赤血球が破壊し溶血するような物理的要因があげられます。

その他、化学薬品や、ペニシリン系薬、抗不整脈薬の硫酸キニジン、抗結核薬のリファジン、降圧薬のアルドメットなぢの薬物が原因となることもあります。

大球性正(高)色素性貧血

大球性正(高)色素性貧血の場合は、巨赤芽球性貧血があげられます。

巨赤芽球性貧血

巨赤芽球性貧血は赤芽球の核が成熟するのに必要なビタミンB12や葉酸の欠乏により、細胞分裂が起こらないかわりに細胞質が増え、巨大な赤芽球になります。

この巨赤芽球の多くは、それ以上成長することはなく、骨髄で破壊されてしまいます。

そのため、末梢の成熟赤血球が減少します。

ビタミンB12が欠乏する原因
  • ビタミンB12の摂取不足
  • 悪性貧血や胃全適後による吸収不良
  • 妊娠
  • 肝障害 など
葉酸が欠乏する原因
  • 葉酸の摂取不足
  • 葉酸の吸収不足
  • 妊娠
  • メトトレキサートなどの葉酸代謝拮抗薬利用 など

貧血の内訳

日本では、約70%が鉄欠乏性貧血、続いて約20%が二次性貧血です。

二次性貧血は、慢性感染症、膠原病、悪性腫瘍、肝・腎疾患、内分泌疾患、妊娠などでみられます。

その他、巨赤芽球性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血が低頻度でみられます。

網赤血球(Ret)

網赤血球は、赤芽球が脱殻して生じる出来たばかりの赤血球のことです。

貧血や出血が起こった場合に、失われた分だけ赤血球産生がぞ押下し網赤血球数も増加します。

このように網赤血球数は骨髄中の赤血球産生能を反映しており、網赤血球の増加は造血の亢進を表しています。

特に網赤血球数の増減は、再生不良性貧血や溶血性貧血のような正球性貧血の鑑別診断に有用とされています。

網赤血球数は網赤血球比率であらわされます。

網赤血球比率

網赤血球比率は赤血球中における網赤血球の数を百分率であらわしたものです。

基準値は、0.5~1.5%です。

骨髄での赤血球を産生する能力の強弱は、網赤血球の絶対数で評価されます。

網赤血球絶対数 = 赤血球数 × 網赤血球比率

基準範囲は3万~10万/μLです。

網赤血球数に異常をきたす疾患

貧血を伴う網赤血球数の増加が見られる場合

 溶血性貧血や急性出血などが疑われます。

このような場合は、成熟赤血球を産生する量より失う量の方が多いために貧血が起こります。

しかし、造血能は保たれているため、赤血球産生が亢進し、網赤血球数は正常より増加していきます。

貧血を伴う網赤血球数の低下が見られる場合

 再生不良性貧血や白血病、慢性腎不全、甲状腺機能低下症などの二次性貧血が疑われます。

コメント