臨床検査・血球検査(血液凝固検査)

医療・薬

次は血液凝固検査についてまとめます。

凝固反応

まずは、血液凝固の流れを簡単にまとめます。

上図のAの範囲が血液凝固の流れです。

凝固には、内因系と外因系の2つの経路があります。

内因系の凝固反応は、血管内の血管内皮細胞の破壊や異物を契機に第Ⅶ因子が活性化され、ついで第Ⅺ因子、第Ⅻ因子、第Ⅷ因子などを経て、第Ⅱ因子であるプロトロンビン、第Ⅰ因子であるフィブリノゲンを順次活性化し、最終的にフィブリンを生成します。

外因系の凝固反応は、血管が損傷して出血する際に、血管外因子が血管内に流入し第Ⅶ因子を活性化することで、その後内因系と同様な経路を介して最終的にフィブリンを生成します。

このように、各凝固因子が作用してフィブリンを生成するまでを二次止血といいます。

凝固因子のほとんどは肝臓で生成されます。

このうち、第2因子(プロトロンビン)、第Ⅶ因子、第Ⅸ因子、第Ⅹ因子はビタミンKの働きによって作られることから、ビタミンK依存性凝固因子といいます。

ミキ
ミキ

※ビタミンK依存性凝固因子の覚え方は『肉納豆』
 に⇒2
 く⇒9
 な⇒7
 っとう⇒10

これらのビタミンK依存性凝固因子は肝臓で作られる際に、前駆物質のグルタミン酸基がビタミンKの作用により、カルボキシル基COO-基をもう1つ結合したグラ基に変えられます。

これにより、結合力は増し、凝固反応が促進されます。

ところが何らかの原因でビタミンKが欠乏すると前駆体のグルタミン酸基がグラ基に変えられず、そのままの状態ででてきます。このような不完全な凝固因子をPIVKA(ピブカ)といいます。

PIVKAが増加してくると凝固因子として働かず、かえって凝固因子の阻害作用を示すようになります。

凝固反応の一連の流れについて、抗凝固薬であるヘパリンやワルファリンの作用部位についてまとめます。

ヘパリンはアンチトロンビンⅢと結合して第Ⅹ因子やトロンビンを抑制して抗凝固作用を示します。

ワルファリンは、ビタミンK拮抗作用により、ビタミンK依存性凝固因子である第Ⅱ因子(プロトロンビン)、第Ⅶ因子、第Ⅸ因子、第Ⅹ因子の産生を阻害し、逆にPIVKAの産生を増加させることで抗凝固作用を示します。

出血時間

では出血時間についてです。

出血時間とは、皮膚から出血した血液が自然に止まるまでの時間を測定する検査です。

出血時間では、一次出血の異常を検出することができるので、一次出血に関与している血小板機能と血管系に異常がないかを調べることができます。

出血時間の検査方法

  • デューク法
    耳たぶに小さな傷をつけて、30秒おきに出血部位に濾紙を当て、止血が完了するまでの時間を測定する方法です。しかし、デューク法では穿刺部位によって出血時間に差が出たり、穿刺時の痛みに反応して血管が収縮し測定が不正確になるなどの問題点があります。
  • アイビー法
    デューク法の問題点をいくつか改良したのがアイビー法です。アイビー法は、上腕に血圧測定用のマンシェットを巻いて、40mmHgの圧をかけてから上腕を傷つけて、止血が完了するまでの時間を測定する方法です。アイビー法はデューク法に比べて、再現性が良いという利点を持つ反面、前腕に傷が残るという欠点があります。

出血時間の基準値

  • デューク法:1~5分
  • アイビー法:3~10分

出血時間が延長している場合は、血小板凝集すなわち一次止血の異常が考えられます。

一次止血では、血小板が主な役割を果たしているため、血小板減少や粘着や凝集などの血小板機能に異常があると考えられます。

血小板の減少の場合は、

  • 再生不良性貧血
  • 急性白血病
  • 骨髄異形成症候群
  • 肝硬変などの脾機能亢進症 等

が疑われます。

血小板機能の異常が考えられる場合には、

  • 血小板無力症などの先天性疾患
  • アスピリン、パナルジンなどの抗血小板薬服用
  • 貧血(ヘマトクリット低下) 等

が疑われます。

出血時間は貧血で延長し、貧血の是正により正常になります。これは血管内で赤血球が血小板を管腔周辺部に押しやり止血させる機会を増やしたりするためと言われています。

活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)

活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は、血管内の血管内皮細胞の破壊や異物を契機に開始される内因支凝固反応を見る検査です。

内因系の凝固反応は出血などをきっかけに、内皮下組織が凝固因子と結合すると凝固因子が活性化され、プロトロンビンがトロンビンとなり、トロンビンがフィブリノゲンをフィブリンに変化させ凝固を引き起こします。内因系の凝固因子が働き出すためには、第Ⅻ因子が活性化することが必要で、これにはカオリン、ケファリンという物質が関与しています。近年では、部分トロンボプラスチン時間の測定には、これらの物質を加えた試薬で検査することが多くなりました。この測定法を、活性化部分トロンボプラスチン時間といい、この方法では従来の部分トロンボプラスチン時間と比べて10~20秒、速く凝固します。

APTTは、内皮下組織が指示を出してからいくつかの凝固因子を経て最終的にフィブリンが産生されるまでの時間を測定するものです。

基準値:25~35秒

APTTが異常をきたす疾患

APTT延長⇒内因系の凝固に関わる第Ⅷ因子が欠乏する血友病A、第Ⅸ因子が欠乏する血友病Bが疑われます。

血友病ではAPTTが延長し、出血時間、血小板数、血小板の機能は正常であることから、APTTは血友病の発見に役立ちます。

また、凝固因子の第Ⅻ、第Ⅺ因子欠損症でも延長がみられます。

肝細胞障害(肝臓癌、肝硬変)や播種性血管内凝固症候群(DIC)等も延長がみられます。

その他、ヘパリン治療中の方にもAPTTの延長がみられます。

ヘパリンにはプロトロンビンからトロンビン形成を抑制する作用とフィブリノゲンからフィブリン返還を妨げる作用があります。

また、ヘパリンは血小板の粘着と凝集を抑制する作用もあります。

ヘパリン投与量の調節(余談)

抗凝固薬であるヘパリン、ワルファリンなどは、血栓塞栓症の治療・予防によく使用されており、その投与量の調整としてAPTTなどが用いられます。

ヘパリン投与量の調節としては、APTTが正常対照値の1.5~2.5倍に延長するのを目安とされています。ヘパリンの半減期は1.5時間と短く、即効性があるため、短期の治療に用いられます。

同じ抗凝固薬であるワルファリンは半減期が36時間と長く効果が表れるまでに時間がかかるため、長期の治療に用いられ、このような薬剤の特徴から、エコノミークラス症候群と言われてる肺血栓塞栓症などでは、ワルファリンの効果が表れるまでヘパリンを投与して、APTTを測定しながらヘパリン投与量を調整します。

延長していたら再検査

採決方法や結晶の取り扱い方などにより、測定値が変動するため、基準値より延長している場合には、採決方法を変更したり、同一検体で再検査します。

播種性血管内凝固症候群(DIC)では短時間で変動するため、連日測定します。

APTTが著しく延長するのは、圧倒的に血友病の場合が多く、筋肉・関節内を中心に多彩な出血症状をおこすため、過激な運動は避け、出血時には欠乏因子を補給します。

基本的な止血検査法

プロトロンビン時間(PT)

プロトロンビン時間(PT)は、血管外の因子が契機で始まる外因系凝固反応を見る検査です。

プロトロンビンは血液凝固の第II因子です。

外因系の凝固反応は出血などをきっかけに、血管外因子が血管内に流入し凝固因子が活性化されて、プロトロンビンがトロンビンになり、トロンビンがフィブリノゲンをフィブリンに変化させ凝固を引き起こします。

PTは血管外因子が凝固反応の指示を出してからいくつかの凝固因子を経てフィブリンができるまでの時間を測定したものです。

基準値は4種類の方法で表されます。

  • PTは凝固時間をそのまま秒で表したものです。
    PT 基準値:9~11秒
  • 国際標準化比(PT-INR)は経口抗凝固薬療法(ワルファリン投与中)のコントロールに使用されているトロンボテストやプロトロンビン時間の測定値を、共通の物差しで比較できるようにした表現方法の一つです。
    PT-INR 基準値:1.0
  • プロトロンビン比(PR)は標準血漿のプロトロンビン時間に対する、被検血漿のプロトロンビン時間の比率を表したものです。
    PR 基準値:1.00±0.15
  • プロトロンビン濃度(PT)は、標準曲線から被検血漿のプロトロンビン時間を濃度に換算した物です。
    PT 基準値:80~100%

PTに異常をきたす疾患

PTが延長する場合⇒外因系の凝固反応に関与する第Ⅴ因子、第Ⅶ因子、第Ⅹ因子、プロトロンビン、フィブリノゲンの先天性の欠損症があります。

また、外因系の凝固反応に関与するプロトロンビンや第Ⅶ因子、第Ⅹ因子は肝臓でビタミンK欠乏症などで延長します。

さらに、凝固因子が消費される播種性血管内凝固症候群(DIC)などでも延長します。

その他、ワルファリン服用中に延長することがあります。
ワルファリンカリウムはビタミンK作用に拮抗し、肝臓におけるビタミンK依存性凝固因子の生合成を抑制して抗凝固効果、抗血栓効果を示すためです。

手術前の検査として測定

出血時間の検査は、いつでも同じ測定値になることが少ない検査です。そのため、手術前には出血時間に変わる検査として、最近はこのPTあるいはAPTTによって血液の凝固能力を測定しています。

肝臓の機能検査として重要

外因系の凝固因子は蛋白で、肝臓で合成されます。そのため、肝硬変や肝臓がんなどで肝臓のタンパク合成能力が低下すると、PTは長くなるので肝機能検査のひとつとしても測定されています。

抗凝固薬療法の指標

急性心筋梗塞や心臓のバイパス手術、あるいは静脈血栓症の治療では血液が固まらないように抗凝固薬を投与します。この時に、抗凝固薬を投与しすぎると血液が固まらなくなり、かえって危険な状態になることがあります。それを防ぐには、固まらない程度を決める必要があり、その指標としてPT検査が用いられています。

延長していたら再検査

検査は、クエン酸ナトリウムを抗凝固薬として用い、血漿に組織トロンボプラスチンを加えた時点から凝固が完了するまでを測定します。

PTはAPTT同様に採決方法や結晶の取り扱い方などによって、測定値が変動することから、基準値より延長している場合には採決方法を変更したり、同一検体で再検査を行います。播種性血管内凝固症候群(DIC)では短時間で変動することから、連日検査します。

トロンボテスト(TT)

トロンボテストはビタミンK依存性凝固因子である第Ⅱ、第Ⅶ、第Ⅸ、第Ⅹ因子の異常を反映した凝固時間検査です。

ビタミンK依存性凝固因子の前駆体は、ビタミンK存在下で活性化され、凝固因子になります。

ところが、ビタミンKが不足するとビタミンK依存性凝固因子が減少し、逆に不完全な凝固因子PIVKAが増加してきます。PIVKAが増加すると凝固機能が低下しますが、トロンボテストは凝固因子の減少とPIVKA出現を反映することができます。

また、トロンボテストはビタミンK拮抗薬でるワルファリンの凝固モニターにも用いられています。

基準値:70~130%

トロンボテストに異常をきたす疾患

ワルファリンなどの抗凝固療法施行時によく異常が見られます。

抗凝固療法を施行していない状況で異常が見つかった場合には、閉塞性黄疸や特にN-メチルテトラゾールチオール基を有する、セフォペラゾン、ベストコールなどのセフェム系抗菌薬長期投与によるビタミンK欠乏、肝硬変、急性肝炎、劇症肝炎などの肝疾患が疑われます。

ただし、病気の診断においてはあくまで補助的な役割で、この検査だけで病名を特定することはできません。

ワルファリンの治療モニター

ワルファリンの効き目を見る検査として、プロトロンビン時間やトロンボテストなどの血液凝固検査が定期的に行われます。

心房細動や新静脈血栓症などではPT-INRが1.5~2.5を目標として、抗リン脂質抗体や心臓弁置換後などではPT-INRが2.0~3.0を目標tして患者さんに適切なワルファリンの量が決められます。(※ガイドライン改定により数値が多少異なっている場合があります。詳細は各疾患のガイドラインを参照ください。)

ワルファリンによる過度の延長を認めた場合には、出血性疾患予防のため薬剤の中止とすみやかなビタミンKの投与が必要となります。

また、少量でも納豆はワルファリンの効果を強力に阻害することが知られていますので、ワルファリン服用中は摂取しないようにしましょう。

フィブリノゲン

フィブリノゲンは血液凝固系の最終反応物質であり、血栓形成の最も重要な凝固因子の一つです。

また、フィブリノゲンは炎症や組織の破壊・変性で上昇します。出血などをきっかけにフィブリノゲンはトロンビンによってフィブリンになります。

フィブリンは一次止血で、出来た血小板血栓をより強固にし、止血を完全なものにするように働く作用があります。このようにフィブリンが行う止血を二次止血といいます。二次止血の事は凝固と呼ばれます。

これから、二次止血の仕組みについてまとめます。

二次止血

血液凝固因子は、通常は活性のない状態で血漿中に存在しています。

出血などをきっかけに凝固因子が活性化され、最後にフィブリノゲンがフィブリンに変化します。そして一次止血でできた血栓をより強固なものにするために丈夫で安定なフィブリン血栓を作ります。

このように、一次止血と二次止血の両方が起こって、完全な止血栓が作られます。

フィブリノゲンの基準値:200~400mg/dL

フィブリノゲンに異常をきたす疾患

フィブリノゲンが低下する場合⇒フィブリノゲンは肝臓で合成されるため、肝硬変や劇症肝炎などの肝障害が考えられます。

また、DICなどでフィブリノゲンの消費が亢進すると低下します。

先天性無フィブリノゲン血症や異常フィブリノゲン血症などの先天性疾患でも低下します。

その他、L-アスパラギナーゼ投与中にも低下することがあります。
L-アスパラギナーゼは、肝臓において凝固因子、凝固阻害因子、線溶因子の合成を阻害することにより、凝固・線溶にアンバランスを生じることがあるためです。

フィブリノゲンが増加する場合⇒感染症などの炎症性疾患、妊娠、急性心筋梗塞等が疑われます。

赤血球沈降速度(赤沈)

赤沈は血漿中の赤血球が一定時間に沈降する距離を沈降速度としてあらわしたものです。

採血した血液とクエン酸ナトリウムを4:1の割合で混和し、Westergren管と呼ばれるガラス管に入れて垂直に立てます。一定時間後に沈降した赤血球層までの距離を測定します。

赤血球はお互いにひきつけ合って塊を作り、血漿中を沈降します。

赤血球が塊を作るときに、ɤ-グロブリンやフィブリノゲンは促進的に働き、アルブミンは抑制的に働くため、ɤ-グロブリンやフィブリノゲンが増加し、アルブミンが減少すると早く大きな塊を作りやすくなり、沈降速度が促進します。

基準値:男性は1時間値2~10mm、女性は1時間値3~15mm

基準値以上に沈降している場合は亢進、0~2mmの場合は遅延と判断します。
女性は男性より高値で、また妊娠すると妊娠3カ月以降高値となり、分娩後1カ月でもとに戻ります。

赤血球沈降速度が変動する疾患

赤沈が促進する場合⇒ɤ-グロブリンやフィブリノゲンが増加しアルブミンは減少している状態が考えられます。ɤ-グロブリンやフィブリノゲンが増加する疾患は、急性及び慢性感染症や多発性骨髄腫、肝硬変が考えられます。また、アルブミンが低下する疾患は、ネフローゼ症候群が考えられます。

また、再生不良性貧血、鉄欠乏性貧血、急性白血病などの貧血をきたす疾患では、赤血球数が減少するため、赤沈は亢進します。

赤沈が遅延する場合⇒ɤーグロブリンやフィブリノゲンが減少し、アルブミンが増加している状態が考えられます。フィブリノゲンが減少する疾患としては無フィブリノゲン血症やDICなどがあげられます。また、赤血球増加や形態の異常でも赤沈が遅延します。

多血症では、赤血球数が増加しぶつかり合うため、早く沈降できなくなります。脱水症では血液が濃縮されるために、赤沈は遅延します。

赤沈は、たとえ異常値を示しても、それがすぐに特定の病気に結びつくものではありません。しかし、さまざまな病気で異常値を示すため、ほかの検査と組み合わせて、全体的な病態把握のために広く行われている検査です。

赤沈とCRPの関係

赤沈は感染症などによる炎症反応で亢進が見られることから、炎症を反映するとされていますが、その特異性は低いと言われています。

そのため、炎症や組織の破壊などがある場合にはCRP(C-反応性蛋白)と比較されます。

炎症反応の指標として用いられるCRPは炎症の開始から、数時間で陽性化します。

しかし、炎症や組織の破壊があったとき、赤沈が変動するのは24~36時間たってからです。回復期でもCRPが正常化してから、かなり遅れて赤沈が正常化します。炎症性病変では赤沈とCRPに相関性が見られることから赤沈の測定と同時にCRPの測定を行うことでより診断に役立つ情報が得られます。

急性感染症等を迅速に知るには、赤沈は不適当といえます。一方、慢性感染症では、赤沈は再燃の発見に鋭敏に反応するため重要な検査で、白血球数や体温より鋭敏に変動することが多いといえます。関節リウマチでは、病勢の指標として赤沈が検査されています。

全身の臓器や皮膚に原因不明の炎症が起こる自己免疫疾患の一種である漸新世エリテマトーデス(SLE)などでは、CRPが軽度の上昇にとどまっている場合でも、赤沈更新が病勢と相関することがあるため、疾患に合わせた選択が重要と言われています。

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